我是負責第2部分~
二
こちらは地獄の底の血の池で、外の罪人と一しょに、浮いたり沈んだりしてゐた犍陀多でございます。何しろどちらを見ても、まつ暗で、たまにそのくら暗からぼんやり浮き上つてゐるものがあると思ひますと、それは恐しい針の山の針が光るのでございますから、その心細さと云つたらございません。その上あたりは墓の中のやうにしんと静まり返つて、たまに聞えるものと云つては、唯罪人がつく微な嘆息ばかりでございます。これはここへ落ちて来る程の人間は、もうさまざまな地獄の責苦に疲れはてて、泣声を出す力さえなくなつてゐるのでございませう。ですからさすが大泥坊の犍陀多も、やはり血の池の血に咽びながら、まるで死にかかつた蛙のやうに、唯もがいてばかり居りました。
所が或時の事でございます。何気なく犍陀多が頭を挙げて、血の池の空を眺めますと、そのひつそりとした暗の中を、遠い遠い天上から、銀色の蜘蛛の糸が、まるで人目にかかるのを恐れるやうに、一すじ細く光りながら、するすると自分の上へ垂れて参るのではございませんか。
- Feb 15 Thu 2007 11:04
大三名著報告:蜘蛛之絲